固定費削減は「利益を守る」最優先施策
売上を伸ばすことと、コストを削減することは、同じくらい重要な経営課題です。しかし多くの中小企業経営者は「売上を伸ばすことに集中」し、コスト管理を後回しにしがちです。
ここで重要なのが、変動費と固定費の違いを理解することです。
- 変動費:売上に連動して増減するコスト(材料費、外注費など)
- 固定費:売上に関係なく毎月一定額かかるコスト(家賃、人件費、通信費など)
売上が落ちても固定費は変わりません。固定費が高い会社ほど、売上低迷時に経営が苦しくなります。逆に言えば、固定費を削減すれば、売上が同じでも利益が増え、不況時のリスクも下がります。
本記事では、中小企業が固定費削減に取り組む際の優先順位と、オフィス費・人件費・通信費ごとの具体的な削減手順を解説します。
まず固定費の全体像を「見える化」する
削減を始める前に、現状の固定費を一覧化する作業が必要です。月次の費用を以下のカテゴリで整理しましょう。
- 家賃・地代(オフィス、倉庫、駐車場など)
- 人件費(給与・社会保険・退職金引当)
- 通信費(固定電話、携帯、インターネット、クラウドサービス)
- リース・レンタル費用(コピー機、車両、機器など)
- 保険料(生命保険、損害保険、車両保険)
- サブスクリプション費用(ソフトウェア、雑誌、サービスなど)
- 広告宣伝費(定額の掲載費など)
一覧化すると「知らないうちに積み上がっていた」コストが浮き彫りになります。特にサブスクリプション系は、「使っているかどうかわからないまま毎月引き落とされている」ものが多くあります。
削減優先順位:インパクトの大きいものから着手する
固定費削減は、金額が大きいものから優先的に着手するのが原則です。以下の順番で検討しましょう。
- オフィス費(家賃):多くの会社で最大の固定費。数十万〜数百万円規模のインパクト。
- 人件費:慎重さが必要だが最大のレバレッジ。削減方法は多様。
- 通信費・サブスク:比較的着手しやすく、見直せば月数万〜数十万円の削減が期待できる。
- リース・保険:契約見直しのタイミングで交渉・乗り換えを検討。
オフィス費の削減:3つのアプローチ
①テレワーク・ハイブリッド勤務によるオフィス縮小
コロナ禍で普及したリモートワークを継続・拡大することで、オフィス面積を縮小できます。全員が毎日出社しなくなれば、座席数を減らしたフリーアドレス制に移行でき、より小さなオフィスで済みます。
都市部の場合、50〜100平米の縮小だけで月10〜30万円の削減になることがあります。
②バーチャルオフィス・シェアオフィスの活用
来客の少ない業種や、営業・外回りが多い職種では、バーチャルオフィス(住所・電話番号の提供のみ)や月額数万円のコワーキングスペースへの移行を検討しましょう。
③賃料交渉・移転
契約更新のタイミングに合わせ、家主に賃料の引き下げ交渉を行います。特に長期入居の場合、交渉の余地は大きいです。また、利便性が高くなくても良い業種であれば、家賃の安いエリアへの移転も有効です。
人件費の削減:「削るのではなく再設計する」
人件費の削減は「給与を下げる」という発想では社員のモチベーション低下・離職につながります。正しいアプローチは「人件費の構造を再設計する」ことです。
- 残業時間の削減:残業代は割増賃金(1.25〜1.5倍)が発生します。業務プロセス改善・ITツール導入で残業を減らすことは、人件費削減として直接効果があります。
- 社会保険料の最適化:法人契約の生命保険・退職金積立の見直し、厚生年金の適切な等級設定などで、社会保険コストを適正化できます。税理士・社労士に相談しましょう。
- 業務委託・パートタイムの活用:正社員で対応している業務のうち、定型的・専門的なものは業務委託やパートタイムへの転換が有効です。特に経理・総務・IT管理などのバックオフィス機能は外注化しやすい。
- 採用の見直し:欠員が出たとき、自動的に正社員採用するのではなく「この業務は本当に正社員でなければいけないか」を見直す。
通信費・サブスク費の削減:見落としがちな節約源
通信費・サブスクリプションは個々の金額が小さいため見落とされがちですが、積み上げると月数十万円になることもあります。
- スマートフォン・携帯プランの見直し:大手3キャリアから格安SIMや法人向け低廉プランへの切り替えで、1台あたり月3,000〜8,000円の削減が可能。10名の会社なら年間36〜96万円の削減になります。
- 固定電話のIP化:従来のビジネスフォンをクラウドPBXやIP電話に切り替えることで、通話料・保守費の削減が可能。
- インターネット回線の見直し:契約から数年経過している場合、より安価・高速な回線に切り替えることで月1〜3万円の削減ができます。
- 未使用・重複サブスクの棚卸し:月に1度でも全社のサブスクリプション費用を一覧化し、「使っていないもの」「機能が重複しているもの」を解約・統合する。Adobe、Microsoft、各種SaaSなど、契約している人が退職した後も引き落とされているケースが多い。
削減交渉のコツ:「見積もり比較」と「更新タイミング」を活用する
保険・リース・コピー機など、長期契約のサービスは「更新タイミング」に交渉の余地があります。
- 契約更新の3〜6ヶ月前から他社の見積もりを取得する
- 競合他社の見積もりを提示して現在の業者に価格交渉する
- 「〇〇社がこの価格で提案してきた。この価格に合わせてもらえないか」と明示的に伝える
この「見積もり比較」という行動だけで、多くの場合10〜30%の削減交渉が成立します。
まとめ:固定費削減は「守りの経営」の基本
固定費削減の取り組みを整理します。
- 月次の固定費を全カテゴリで一覧化し、現状を把握する
- 金額が大きいものから優先的に着手する(オフィス費→人件費→通信費)
- テレワーク活用・小型化・移転でオフィス費を削減する
- 残業削減・業務委託転換・採用見直しで人件費を最適化する
- 全サブスクリプションを棚卸しし、未使用・重複を解約する
- 契約更新タイミングに見積もり比較を行い、交渉する
固定費削減は、売上を伸ばすよりリスクが少なく、確実に利益を改善できる手段です。「節約は悪いこと」という先入観を捨て、コストの最適化は経営判断の一つとして積極的に取り組みましょう。


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