「インボイスはもう対応済み」と思っていませんか?実は、多くの中小企業経営者にとっての本当の試練はここからです。
2026年9月末、インボイス制度の「80%控除」経過措置がいよいよ終了します。2023年10月の制度開始から3年間設けられてきた猶予期間が幕を閉じ、10月以降は仕入税額控除率が70%へ引き下げられます。さらに2028年以降も段階的に縮小が続き、最終的には完全終了する予定です。
「うちは課税事業者だから関係ない」と思ったとしたら、それは危険な誤解です。免税事業者との取引をしている会社、フリーランスへの外注が多い会社、下請けを抱えている会社——すべてに直撃する変化です。
残り3ヶ月の今、何をすべきか。経営者として知っておくべき実務対応を整理します。
まずおさらい:インボイス「経過措置」とは何か
インボイス制度では、適格請求書発行事業者(課税事業者)からの仕入れのみ、消費税の仕入税額控除が全額認められます。免税事業者(年間売上1,000万円以下など)は適格請求書を発行できないため、免税事業者との取引では消費税の控除が受けられなくなります。
ただし、制度移行時の混乱を緩和するため、段階的な経過措置が設けられました。
| 期間 | 控除率 | 実質的な影響 |
|---|---|---|
| 2023年10月〜2026年9月 | 80% | 免税事業者との取引コスト増は小さい |
| 2026年10月〜2028年9月 | 70% | コスト増が本格化し始める |
| 2028年10月以降 | 50%→段階縮小 | 取引の見直しを迫られる可能性 |
80%から70%への変化は「たった10%」と思いがちですが、金額に直すと話は別です。仕入消費税が年間200万円の会社なら、控除できない額が40万円(20%)から60万円(30%)に増加します。20万円の実質的な負担増です。
2026年10月前に必ずやるべき5つの対応
①取引先の「課税事業者/免税事業者」状況を全件把握する
最初にやるべきは、現在の取引先が適格請求書発行事業者かどうかを確認することです。
確認方法:国税庁の「適格請求書発行事業者公表サイト」(https://www.invoice-kohyo.nta.go.jp/)で登録番号を入力すれば、登録の有無が無料で確認できます。
取引先リストを整備して、次の3グループに仕分けしてください。
- Aグループ:課税事業者(適格請求書発行可)→そのまま取引継続でOK
- Bグループ:免税事業者だが課税転換を検討中 → 確認・交渉の余地あり
- Cグループ:免税事業者で転換の意思なし → 取引継続か否かの判断が必要
特に外注費・委託費の多い会社は急ぎましょう。フリーランスや個人事業主との取引が多い業種(建設、IT、コンサル、デザイン等)は影響が大きいです。
②免税事業者との価格交渉を始める
免税事業者との取引を継続する場合、増加するコスト分をどう扱うかを交渉する必要があります。
ただし、ここで注意が必要です。下請法や独占禁止法の観点から、「インボイスが出せないから値下げして」と一方的に迫ることは違法になる可能性があります。公正取引委員会もこの点を明確に警告しています。
適切な対応は次の3択です。
- ① 課税転換を依頼する:免税事業者に課税事業者への転換を促す(強要は×)
- ② 控除不可分を価格に反映させる:消費税相当分の一部を値引き交渉する(合理的な根拠が必要)
- ③ 取引を継続しコスト増を受け入れる:関係維持を優先し、自社でコストを吸収する
どの選択肢も取引先との信頼関係に影響します。遅くとも2026年8月中には交渉を始めるべきです。
③会計ソフト・システムの確認と更新
2026年10月以降は仕入税額控除の計算ルールが変わるため、会計ソフトが新しい控除率(70%)に対応しているか確認が必要です。
主要クラウド会計(freee、マネーフォワード、弥生会計オンラインなど)は自動アップデートで対応予定ですが、オンプレミス型の古いシステムを使っている場合は要注意です。担当税理士や会計ソフトベンダーに9月末までの対応確認を済ませておきましょう。
また、電子帳簿保存法との連携も再確認してください。インボイスの受領データを適切に保存・管理できているか、受領から保存までのフローに漏れがないかをチェックしましょう。
④消費税の納税資金を事前に確保する
見落としがちなのが資金繰りへの影響です。仕入税額控除が減ると、年間の消費税納付額が増加します。
具体例で見てみましょう。
- 年間売上5,000万円(課税売上)の会社が、免税事業者から年間1,000万円(消費税100万円)の仕入れをしている場合
- 現状(80%控除):控除できる消費税 = 80万円 → 実質負担20万円
- 2026年10月以降(70%控除):控除できる消費税 = 70万円 → 実質負担30万円
- 年10万円の納税額増加(取引規模が大きいほど影響も拡大)
消費税は確定申告時に一括納付または中間納付する税金です。「いざ払う段になって資金が足りない」は黒字倒産の典型パターンのひとつ。増加分を事前に試算して、毎月積み立てるか、運転資金として確保しておく習慣をつけましょう。
⑤簡易課税制度の適用を再検討する
売上が5,000万円以下の中小企業は、「簡易課税制度」を選択できます。これは、実際の仕入れを集計せず、業種ごとに定められた「みなし仕入率」で消費税を計算する制度です。
免税事業者との取引が多い場合、実際の仕入税額控除(本則課税)より簡易課税の方が有利になるケースがあります。特に、外注費の比率が高いサービス業・コンサル業・IT業などは要検討です。
ただし、簡易課税は適用年の前年末(2025年12月末)までに届出が必要なため、2026年1月からの適用はすでに手遅れです。2027年から適用するなら2026年12月31日が期限なので、今から税理士と試算を始めておくべきでしょう。
「対応済み」で終わらせない:経営判断としてのインボイス対応
インボイス制度への対応は、単なる経理・税務の問題ではありません。取引先との関係、外注戦略、価格設定、資金計画すべてに影響する経営判断です。
特に以下のような会社は、早急に全社的な見直しが必要です。
- 外注費・委託費が売上の30%を超えている
- 個人事業主・フリーランスへの発注が多い
- 建設業の下請け構造がある
- 免税事業者との取引が5社以上ある
経営者自身が「自社の取引先の何割が免税事業者か」を即答できない場合は、今すぐ実態把握から始めてください。担当者任せにせず、経営者がこの問題に関与することが重要です。
まとめ:残り3ヶ月でやること
- 7月中:取引先の課税・免税区分を全件リスト化
- 8月中:免税事業者との価格交渉または方針決定
- 9月中:会計ソフトの対応確認・消費税納税資金の確保・簡易課税検討
- 10月1日:新ルール(70%控除)での運用開始
「知らなかった」では済まない変化が、もう目の前に来ています。3ヶ月という時間は短いようで、今から動けば十分に準備できます。担当者まかせにせず、経営者自ら全体の指揮を取ることが、この局面を乗り越える鍵です。
不安な点があれば、早めに税理士・中小企業診断士に相談することをお勧めします。経営環境が変わるタイミングこそ、専門家のサポートを活用する絶好の機会です。


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